人と社会の関わり -そこから生まれるもの-

- interview with ジョン・ウッド -

貧困や環境保護などの社会問題を、事業を起こして解決する
社会起業家たち。米国では彼らが、新しいヒーローとして浮上してきている。
急激な成長を遂げる教育NGO「Room to Read」の創設者、ジョン・ウッドさんも
「21世紀のカーネギー」と呼ばれている。
マイクロソフト役員時代にアジアを旅し、勉強したくても学校や
本のない子どもたちに接して、途上国における教育を仕事にしようと決心した。
そのいきさつを綴った著書が日本でも出版されたジョン・ウッドさんに
お話をうかがった。

 

ジョン・ウッド


ケロッグ経営大学院でMBAを取得後、数年の銀行勤務を経て、
1991年にマイクロソフトに入社。
30代前半で国際部門の要職に就き、オーストラリアと中国に赴任した。
大中華圏の事業開発担当重役を務めていた時、
人生の進路を転換して、途上国の子どもに教育という贈り物を
届け貧困のサイクルを断ち切ることを、自分のライフワークにすることを決める。
1999年末にNGO『Room to Read(ルーム・トゥ・リード)』を設立。
ネパール、インド、スリランカ,カンボジア、ラオス、
ベトナム、南アフリカ等で識字率向上のために活動している。
著書『Leaving Microsoft to Change the World: 
An Entrepreneur’s Odyssey to Educate the World’s Children』は、
15言語に翻訳された。


Room to Read
http://www.roomtoread.org/






B:マイクロソフト社の役員をしていたころ、アジアで学んだことは何ですか? アジアには信じられないほどの、富の不均衡があるということです。 日本のように世界第2経済の最も豊かな国もあれば、 スイスやオランダと同程度の経済水準を誇るシンガポールのような国もある。 その一方で、人々が一日1ドルで生活しているカンボジアや、 3億人以上が読み書きができないインドのような国もあります。 その経済水準と識字率には明らかな関係があり、 教育が中心的役割を果たしています。 子どもを教育しない国は、 結果として貧困から抜け出せないという悪循環に陥っています。


B:Room to Readを始める以前、あなたはベトナムで出会った少年に、 ‘奨学金’と称して書籍代を渡してあげましたね。 一番強く感じたのは、途上国の子どもたちが いかに知識に飢えていたかということです。 1997年にベトナムに旅したときに出会ったブーは、 学びたくて、本を読みたくて、コンピュータも覚えたいのに、 ほんの少しのお金がなくて勉強できない典型的な例でした。 だからまず、本能的に助けたいと思ったのです。 自分もいつも誰かに助けられて教育を受けてきたわけですし、 マイクロソフトで働いていたので、 何かしら実になることをしなければと思いました。 その後、彼が努力を重ねて、大学院で学ぶようになったことを、 とてもうれしく思っています。


B:あなたの本の原題は『Leaving Microsoft to Change the World (マイクロフトを辞めて世界を変える)』ですね。 どうやって世界を変えるのですか? 「教育こそが人々の本当の力になる」という信念のもと、 まだ小さいうちから子どもの生活に関わります。 それがひいては社会経済の状態を向上させ、 彼らの家族、地域、国、そして世代の未来によい影響を与えていくのです。 教育だけが提供できるチャンスを通じて、 私たちは子どもひとりひとりの、貧困のサイクルを断ち切っていきます。 香港が富裕な国になったのは、 ほとんどの国民が教育を受けるようになってからです。 カンボジアやネパールのようなほかの国でも、 同じようなことが起きて欲しいのです。


B:ー具体的にはどんなことがきっかけで、 マイクロソフトの役員から途上国の子どもたちの教育へ、 キャリアを転換したのですか? 休暇でネパールをトレッキングしていた時に、 ひょんなことから現地の学校を訪問しました。 図書館には20冊しか本がなくて、鍵のかかった棚に大事にしまわれていました。 しかもその本を見てみたら、ダニエル・スティールのロマンス小説とか、 旅行ガイドとか、バックパッカーが残していったものばかりで、 児童向けの内容ではなかったのです。 学校には450人の生徒がいるのにです。 私は自分自身が本が大好きだったので、本のない子ども時代は想像できません。 校長先生から「いつか、本を持って帰ってきてください」という言葉を聞いて、 自分のエネルギーとお金を使って、この状況を変えようと誓いました。 米国の知人という知人にメールを書いて、協力を募りました。 当時は海外に住んでいたので、実家の両親の家に、 古書・新書を問わず、児童書を送ってくれるよう頼みました。 その結果3,000冊以上が届いて、数カ月後、 約束どおりネパールに戻ることができました。 父が一緒に来てくれたという意味でも、貴重な旅でした。 そうやって現地に10の学校に図書室を設置した時、 それまでになかったような幸せを感じました。 それで、こう決めたのです。 すでにリッチな人をもっとリッチにするような仕事に精を出すのはもうやめて、 開発途上国の子どもたちに、教育という生涯の贈り物を届けようと。 このようないきさつで、最初に学校に連れていってくれたネパールの人と、 ’ブックス・フォー・ネパール’という団体を作りました。 その後、名前を‘ルーム・トゥ・リード’に変えて、 2番目の支援国、ベトナムでの活動を始めました。


B:マイクロソフトの経営戦略を、 NGOであるRoom to Readの活動に応用して成果を上げているそうですね。 私がマイクロソフトで学んだ最大のことは、 上司だったスティーヴ・バルマーの言葉に集約されています。 それは「大きく考えろ」ということです。 私は「2020年までに最低でも1千万人の子どもを教育する」 という目標を立てました。 「この数字を聞いて‘無理だ’と思うなら、この組織には合わないよ」と、 当初から関係者には言ってきました。 基礎教育さえ受けられない子どもが何億人も存在しているわけですから、 Room to Readには大きく拡大してほしいのです。 潜在的な顧客が多ければ、ビジネスは急激に成長します。 NGOも同じように考えるべきだと思うのです。 うちのスタッフとは、スターバックスが出店する勢いで、 途上国に図書館を増やしたいねと話しています。 開発途上国には8億人の非識字者がいる。 ビジネスとして考えた時に、限られた資金を使って、 いかにその潜在的な‘顧客’にリーチできるか。 私は当初から、このようにグローバルに考えてきました。


B:ほかにはマイクロソフトで学んだことを、 どのように図書館や学校づくりに活かしていますか? 私はマイクロソフトでの経験から、長期的な価値を生み出すためには、 初期の投資が重要だということを知っています。 ですから私たちは、図書司書の研修にたいへん力を入れています。 途上国では図書館を知らないで育った人が大半ですから、 研修が欠かせないのです。 また、子どもに親しみやすい環境づくりを心がけています。 具体的には、座りやすい床、机、椅子、明るい色調の壁、 十分な照明、空調、本が撮りだしやすい棚、子どもの目の高さに本があることなど。 本があればいいわけではありません。本や読書が、 子どもにとって待ち遠しいものになるような環境を作ることが大事なのです。


B:NGOをビジネスと同じように運営できると思いますか? 100%そういう言い方が適切とは思いませんが、 ビジネスの世界のよいところと、NGOの世界のよいところを あわせて取り入れることは必要だと思います。 私はスタッフに、Room to Readはマザー・テレサの思いやりと、 優良企業の粘り強さを備えた組織でありたいと話しています。 2つ例を挙げましょう。ひとつ目は、結果を公表すること。 建築した学校の数、届けた書籍の数、奨学金を出した子どもの人数など、 結果をきちんと数字で出して、四半期ごとにウェブサイトで発表する。 ビジネスがやらなくてはいけないことなら、NGOもやるべきでしょう? ふたつ目は、経費を抑えて、厳しく管理すること。 私はNGOが運営や資金集めに資金の30〜40%を使うのはまずいと思うので、 例えば出張費も、航空会社のマイレージを寄付してもらったり、 ホテルの好意で宿泊費を無料にしてもらったりしてコスト削減しています。 私どもの年予算の半分は、米国を中心とした先進国30都市の ボランティアが集めています。こうしたやり方によって、 予算のおよそ9割を、実際の教育プログラムそのものに充てることを可能にしています。 きわめて効率的な組織の陰には、たくさんの小さな工夫があるのです。


B:マイクロソフトを辞める時のことをよく振り返って、 個人的なことまで正直に著作に書かれていますが、一番つらかったことは何ですか? ある程度確立された人生とライフスタイルを捨てて、 全くどうなるかわからない状態に入っていくことはつらかったですよ。 辞める時点で確かだったのは、やらなければならないということだけで、 まだRoom to Readについてしっかりした計画があったわけではなかったですから。 将来がどうなるかさっぱりわからないことを始めるのは、恐かったです。


B:そういう人生の転換を実行できるのは、特別な才能のある人だけでしょうか? そんなことはないでしょう。私の場合は、恵まれたことに家族や友人が協力的でしたし、 経済的に安定していましたから幸いでした。 でもそれをさておいても、最初にネパールに本を届けて、 それがどれだけのインパクトを現地にもたらすかを見た時から、 自分にはもう引き返せないことがわかっていたんです。 自分が辞めても会社が困るのはせいぜい1、2カ月で、穴は埋まる。 でも貧しい村に学校や図書館を作る仕事をしようという人間が、どれだけいるか? 私が挑戦しなくてどうする?と、自分に問いかけました。 他人の協力があろうとなかろうと、 自分の後半生は非識字率と闘うことに捧げようと決めていました。 でも、勇気をもって人生を大きく変えている人というのは、 いつ、どこにでもいます。私はたまたまそのことについて本を書いたまでです。


B:人生を変えたいと思っている人に、アドバイスはありますか? 何か新しいことをやろうとすると、 それができない理由を並べ立てる人が必ず出てきます。 私の場合もそうでした。ひとりで考える時間が長くなればなるほど、 ネガティブな力にひっぱられて取り込まれやすくなります。 本当にやりたいことがあるなら、いつまでもぐずぐず考えていないで、 思い切って飛び込んでみること。行動してみることですね。


B:2001年末の設立からこれまでに、 どこの国でいくつ図書館や学校を建てたのですか?実績を教えてください。 カンボジア、インド、ラオス、ネパール、スリランカ、ベトナム、南アフリカのほか、 ザンビアで活動が始まったところです。 2008年は中南米にも進出する予定です。 これまでに287の学校を開校し、3,800以上の図書館と 136のコンピュータ&語学教室を開設しました。 子どもたちの手に300万冊以上の本を届け、 3,448人の少女に長期奨学金を授与しています。 このように強化された教育設備を利用する子どもは、130万人以上にのぼります。 また、アメリカを中心とした世界30都市に、 ボランティアたちが運営するチャプター(拠点)があります。


B:30都市のチャプター(拠点)の中には、東京も含まれるそうですね。 東京チャプターは2007年2月に発足しました。 4月には南アフリカ大使館で、 東京における第一回目のファンドレイジング・パーティを開き、 日本人と在日外国人をあわせ250人以上の方が参加してくれました。 結果は予想をしのぐもので、2時間の間に23万ドル、 日本円にして2,500万円以上もの寄付金を集めることができました。 それまでのRoom to Readのイベントの中でも、最高額です。 Room to Readでは寄付金額によって寄付したいプログラムを指定できます。 このお金を使って、2つの学校(各2万ドル)の建築、 16の図書館(各1万ドル)の設置、40口の女子奨学金(250ドル/一人・一年分)、 現地言語による1冊の本の出版(2,000ドル)が決定しました。 用途を指定しない寄付も31口にのぼりました。


B:どうして短期間で、ここまで成長したのでしょう? NGOを成功させる秘訣は何ですか? Room to Readに寄付すると、明瞭でダイレクトな結果が見られるということが、 寄付をひきつけるのだと思います。 いくらあれば学校がひとつ建つか、図書館をひとつ設置できるかを明言していますし、 プロジェクトの報告書も発行しています。 もうひとつ重要なことは、必ず現地の人たちに関わってもらうということです。 私は途上国の村に出向いていって、一方的に図書館や学校を建ててあげるのが、 いいことだとは思いません。 ですから地域民が自ら労働を寄付することを、支援の条件としています。 つまり建築のための材料は提供しますが、基礎工事の穴掘りをしたり、 セメントを混ぜたり、建材を運んだりする作業は、 現地の親御さんたちにお願いしています。 開校式の時、現地の人々の顔は誇りと喜びで晴れ晴れとしています。 この学校は自分たち自身がつくった誇れるものだと思ってもらうことが、 現地に力を与えます。この方が長期的に見てずっといい。 学校づくりにおける私たちの役割は、カタリスト的なものです。 いったん建ってしまうと、所有権は現地の自治体などに渡し、 彼らが毎日学校を運営していきます。 Room to Readではその後の数年間、学校の運営状況をモニターして支援するだけです。


B:書籍の寄贈だけでなく、現地言語での出版も行なっていますね。 子どもたちが親しんで学べることが大事なので、 現地の作家に本を書いてもらい、出版するプロジェクトを行なっています。 現在、Room to Readオリジナルの本を、8〜9カ国語で出版しています。


B:女子のための奨学金制度Room to Growについて教えてください。 なぜ女子の教育に力を入れるのですか? 開発途上国では、学校へ行くのにお金がかかります。 また多くの親たちは、労働力でもある子どもを学校へやることができません。 経済的・文化的な理由で、特に娘を学校へやるのをあきらめることが多いのです。 男の子が学校で勉強している間、女の子は家事をして、 妹や弟の面倒を見なければなりません。 この結果、非識字者の2/3が女性です。 母親が教育を受けていれば、それだけ子どもに教える知識も増えます。 ネパールでこのプログラムを手伝っている人が、 いつもこう言っています。 「男の子を教育することは、その男の子を教育することにしかならない。 女の子を教育することは、家族全体と、 さらには次の世代をも教育することになる」。 教育制度に参加する女性が増えると、幼児の死亡率が減る、 エイズなど感染症の伝染が抑制される、 飢餓と貧困が軽減されるなど、 社会全体に恩恵がもたらせられることが実証されています。 国連では以前から、少女の教育がどんな取り組みよりも 大きな影響を途上国にもたらすと提唱しています。 Room to Growは、学校に行きたくても行けない女子に、 長期に渡って奨学金を支給するプログラムです。 ちゃんと出席して試験に合格していれば、中学卒業まで支援します。 学費のほか、ひとりにつき制服二着、靴二足、通学カバン、 学用品、健康保険と通学のための自転車を支給します。 また、奨学生たちを担当する女性アドバイザーも派遣します。 これをすべてひっくるめて、支援額は年間250ドルです。 これだけの金額で人の人生が変わる機会は、そう滅多にありません。


B:昨年ビル・ゲイツが、「2008年にマイクロソフトを引退して、 ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動に専念する」と発表しましたね。 私がビル・ゲイツの本のタイトルを先取りしてしまいましたね。 そのうち私から知的財産権を買ってくれないかな。 そしたらそのお金でもっと学校が建てられる(笑)。 冗談は抜きにして、ビルとメリンダが基金でやっていることは 素晴らしいと思います。 ビル・ゲイツとウォレン・バフェットという2人の大富豪は、 その財産のほとんどを財団に寄付すると発表したことで、 世界に強力なメッセージを送ったと思います。 それは「お金を稼いだこと自体が、素晴らしい人間をつくるのではない。 そのお金で何をするかで、人間の価値が決まるのだ」というメッセージです。 彼らはきっと、大きく世界を変えるでしょう。


B:先進国の途上国に対する責任について、どう考えますか? フィランソロピーというのは異なる段階を経ていくものだと思います。 どの国も、徐々に貧困から立ち上がる。 そして立ち上がるとまずは誰しも家族の面倒をみる。 次には地元地域に役立つことをする。それはいいと思います。 でももっと進んだ慈善の考え方というのは、 自分が会ったこともない人を助けることです。 自分とは外見も考え方も、国や宗教も人種も異なる人たちです。 私たちは極めて貧しい場所に手を差し伸べるべきです。 例えばデリーのスラム、きれいな水も学校もないザンビアの村など。 私はそれこそが、米国や日本のような先進国がやるべきことだと思うのです。 私の好きな言葉は「多くを与えられた者には、多くが期待される」です。 先進国が稼いだお金が、本当に価値のあるものだったのか。 今それが問われています。 私たちは、価値あるお金の使い方をしなければなりません。 私にとってそれは、数十億の貧困にあえぐ人達を助けることなのです。


B:どうも ありがとうございました。



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