人のために何をする? 未来へつなぐ、最初の一歩
社会貢献と起業が、クロスする場所。

- interview with 村田早耶香 -

カンボジアの児童買春問題に取り組む「かものはしプロジェクト」
という組織がある。10代の子供たちが強制的に売春宿に売られるとい
う悲惨な現実に立ち向かうNPO法人だ。根本的な原因にカンボジア農
村の貧困を見る同プロジェクトは、粘り強い努力と行動力で新たに雇
用を創出、買春の阻止に実効力を発揮している。その成果の背景には、
ボランティアや人道支援にばかり頼らない、「ビジネス」と「社会起業」
に対する確かな視線がある。社会貢献と起業がクロスする場所。同プ
ロジェクト共同代表の村田早耶香さんに話をうかがう。


 

村田早耶香  Sayaka Murata


2002年、大学在学中に「かものはしプロジェクト」を発足させ、
以降、共同代表として活動をスタート。
2004年に、かものはしプロジェクトカンボジア事務所を立ち上げ、
子ども達へのパソコン教室を開始する。
同年、NPO法人格を取得し、代表理事に就任。
2005年日経WOMAN 「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006 リーダー部門」史上最年少受賞。
2006年日本青年会議所「人間力大賞」参議院議長奨励賞受賞。
そして2007年には、世界の傑出した若者に与えられるJCI(国際青年会議所)TOYP賞を
受賞(ケネディ元米大統領やキッシンジャー氏も受賞)している。



かものはしプロジェクト


正式名称は、特定非営利活動法人かものはしプロジェクト。
強制的かつ商業的な性的搾取を防止する活動を、
持続的・発展的に行い、すべての子供たちが未来への希望を
持って生きられる社会の実現をめざしている。
カンボジアでの「コミュニティファクトリー事業」を中心に、
「PCスクール事業」「IT事業」「サポーター事業」などを展開している。
なお、月々1,000円の支援で、誰でもすぐにサポーターになることができる。
詳細はホームページで。


公式サイト:
http://www.kamonohashi-project.net/







B:カンボジアという国について日本人が知っていることと言えば、 世界遺産アンコール・ワットや、世界を震撼させた ポル・ポト独裁政権など、ごく限られたことだと思います。 カンボジアの現状と、そこでの少女買春の実態について、まずはお聞かせください。 カンボジアでは、ベトナム軍が撤退して20年にもなるというのに、 内戦の影響で国内にはいまだに多くの地雷や不発弾が埋まっています。 都市部に比べて農村部は貧しく、貧しさゆえに数千から数万人の少女が 性産業に強制的に従事させられているという事実があります。 2007年に、子供を買ったら何年の刑に処する、といった罰則規定のある法律ができましたが、 それでもむしろカンボジアでは児童買春は増えているという見方もあります。 需要に対する法的な規制はできても、供給に対するアプローチが足りていないためです。 貧しく、仕事もない状況で、家族のために身を売らざるを得ないという現実。 マッサージの仕事やビアガールなどの仕事を持っている人も、 それだけでは家族を養うことができず、 結局そういった仕事をしながら体を売っているという人も居ます。


B:ODA(政府開発援助)などは機能していないのでしょうか? もちろん、様々な国がODAで援助をしていますが、 内戦が終わって20年近く経つというのに、まだインフラを作っている状態です。 主要な幹線道路以外は舗装されていないし、きれいな水を飲める国民は60%しかいません。 国民の8割が農業に従事していて、あとは縫製業と観光業ですが、 貧しい人程土地を持っていないため他の人の農地で働いたり、都会に働きに出たりします。 特に農村部には仕事に就くことのできない人がたくさんいます。 縫製工場がおよそ20万人を雇用しても、まだまだ足りない。 フンセン首相が懸命に外国企業の誘致に努めていますが、 日本企業はリスクが高すぎてあまり進出しないし、 逆に中国や韓国企業が進出しても、自国から人材を大量に連れてきているため、 地元にお金が落ちていきません。


B:そうした現状に対して、「かものはしファクトリー」で出された 具体的な解決案が、農村に雇用を創出する、ということですね? そうです。 「コミュニティファクトリー」と呼んでいますが、 貧困家庭の親や年長の兄弟を雇用し、 自分たちで村にファクトリーをつくりました。 職業訓練をして技術を与えても、 その先に就労の機会がなければ意味がありませんから、 ファクトリー自体が持続可能な自己収益性の事業、 つまりはビジネスとして成立できるようなものにしています。 ファクトリーでつくるものは、事業を始めた当初、 提携した地元NGOがすでに職業訓練を行っていたことと、 電気も通っていないような村でもつくれるものということで 「いぐさ」製品に決まりました。 雇用を生み出すにあたっては、その場所を都市部にするか、 農村部にするかでずいぶん議論しました。最終的に、 『都市に出稼ぎに行くよりも、農村で親子が一緒に暮らしながら職を得られたほうがいい』 という結論に達したんです。 ファクトリーを建設した場所が、アンコール・ワットのあるシェムリアップの近郊だったので、 ここなら、観光客相手に民芸品を売ることができるという計算もありました。 シビアな目で見れば、私たちのファクトリーがつくり出す いぐさ製品の市場競争力はまだ発展途上だと思いますが、 それでもスタート当初から比べれば、ずいぶんレベルアップしたと思います。


B:ファクトリーで働く方たちは、どのようにして決まるのですか? 現在、「かものはし」のコミュニティファクトリーでは 26名の女性を雇用しています。 まず2ヶ月間の職業訓練を受け、その後、実際の生産に従事してもらいます。 ファクトリー開設にあたっては、村長や村の有力者たちと 事前に綿密なミーティングを行いました。 その後、村長が推薦する家庭を一軒ずつ訪問、 一人ひとりの状況や貧困度合いを考慮に入れた上で、雇い入れています。


B:さて、村田さんご自身のお話をうかがいたいと思います。 「児童買春」という問題に関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか? この問題にリアルに直面したのは、大学生の時でした。 もともと国際協力の仕事に就きたいと考えていましたので、 大学で児童買春の問題を学んではいたんです。 「本当にそんな酷い話があるのか」と考えていましたが、 旅行で東南アジアを訪れた際、それがまぎれもない現実だと知りました。 電気ショックを与えられながら売春を強要されているところを 保護された少女をはじめ、HIV感染の少女など、 様々な悲惨な現状を目の当たりにしました。 そして「これは、なんとかしなければ」と思ったのです。


B:そうした現状に心を痛めても、 それを「変える」ためにアクションを起すところまで行く人は、 なかなか少ないのではないかと思います。 村田さんに、「かものはしプロジェクト」の運営にいたるまで、 背中を押したものは何でしょう? ある期間、そうした少女たちと一緒に過ごすと情が移ってきて、 最後は泣きながらお別れする、ということになります。 そう、ちょうどテレビ番組の『世界ウルルン滞在記』みたいに。 そうなると私にとっては、何々国の○○さんではなく、 自分の妹や近所の子供を助けたいという気持ちと同じになります。 日本とか、カンボジアとか、場所は関係ないんですよ。 そこに距離はない。 あの人たちを助けたい、 そのためには買春の原因になっている貧困や社会構造を変えるしかない、 そう思うことは自然なことだと思います。 例えば家族に自己破産をした人がいたとして、 それが本当にその人のせいなのか、そこまで追い込んで行った 社会システムや世の中のゆがみの犠牲になったのだとしたら、 そんな社会を変えたい、と思いませんか? それと同じことだと思っています。


B:カンボジアという、まったく文化も経済水準も違う場所でのプロジェクトですから、 ずいぶん、戸惑いも試行錯誤もあったと思います。 もちろん色々なことがありましたが、私の場合、小さい頃から、 「日本」とか「日本人」という意識は、 希薄なほうだったかもしれません。 私の父は、仕事で東南アジアを訪問した際、 現地の人たちからとても親切にされたことに感謝して、 『なにか恩返しがしたい』と考えていました。 ですから、アジア系の人たちばかりでしたけど、 毎年のようにホームステイの人たちが来たり、 しょっちゅう、外国人の友達が出入りするような家庭だったんです。 私がちょっとでも暇そうにしていると、 すぐに国際問題に関するドキュメンタリービデオを見せたがるし、 そういう『洗脳』をずっと受けてきたことはまあ、事実ですね(笑)。 もともと、食べ残しをすると叱られましたし、 1ヶ月のおこづかいが5千円だったとしたら、 「5千円という金額はね、タイでは1人の子供が1年間、中学校に通える額なんだ」 と教わりました。


B:「かものはしプロジェクト」が実際にカンボジアの地で 成果を上げている最大の理由として、 社会貢献活動をビジネスとして キチンと成立させているという点があると思います。 私はもともと、他の団体で半年間、 講演会などをお手伝いしてきました。 でも、毎回、会に来る人のタイプが一緒なんです、 広がっていかないんですね。 かものはしを始めてからは、社会貢献というだけでなく、 社会起業家の一人として取材していただいたり、 報道されるようになって、 そうした方向から興味を持ってくださる方が増えてきました。 もともと日本には寄付という文化があまりなくて、 例えばアメリカと比べると集まる寄付金額の総額が全然違います。 日本ではやはり、新しいビジネスの形として機能している ということがわかったところで初めて、 興味を引き寄せることができるのかもしれません。 「かものはしプロジェクト」には現在、 カンボジアでの「コミュニティファクトリー事業」のほかに、 企業のホームページ作成の、コーディングの部分に特化した「IT事業」、 広く一般サポーターからの支援金を募る「サポーター事業」があります。 また、2007年までは、孤児院の子供たちにPCを教える 「PC教室」をやっていました。 2008年からサポーターの数がグッと増えましたが、 それでも4年かかって寄付金の総額が2700万円なんです。 ところがIT事業は、ほぼ同じ時間で5600万円を売り上げている。 倍なんですね。 ビジネスを社会貢献活動に入れることの最大のメリットは、 なんといってもスピードの速さだと思います。


B:村田さんは、「かものはしプロジェクト」の活動を、 広く知ってもらうための広報活動が主なお仕事だと思います。 講演などもしばしばされると思いますが、 どんな所で話される機会が多いですか? また反応はいかがですか? 講演会は、年間60回ほどしています。 ロータリークラブや学校(大学)などが多いですね。 大学では、授業にお招きいただくことも多々あります。 開発経済学のようなジャンルや、 例えば九州大学で行われている起業家セミナーのような場所では、 参加者のモチベーションは非常に高いと思います。 講演会は、起業に興味のある人、社会問題全般に興味のある人、 そして若手のキャリアに興味のある人など、 幅広くメッセージを届けられる貴重な機会です。 その際、私たちの活動が評価されたり、 注目していただく点があるとすれば、 やはり「社会貢献活動」というものを、 同時にビジネスモデルとして成立させている、 つまり持続可能性のある事業をやっているという、 まさにその点だと思います。


B:「かものはしプロジェクト」では、 「スタディ・ツアー」を行っていますね。 これは、カンボジアの現状を少しでも広く知ってもらおうという意図ですか? そうですね。外部の方に一人でも多く、 カンボジアの現状を知っていただきたいと思って始めたものです。 北海道から沖縄まで、全国から参加者が集まります。大学生が多いですね。 将来、国際貢献や社会貢献の仕事に就きたいと思っている人もいれば、 通常の旅行より、もう少し意味のある旅にしたいと思って参加される方もいます。 問題意識のレベルはまちまちですが、 とにかく何かを知ったり、気づいたりしてもらえればと思っています。


B:最後に、今後の課題や展望についてお聞かせください。 まずは、今クチャという場所で自分達が運営している コミュニティファクトリーをしっかりと自立させたいと思っています。 「自立」の具体的な意味は、 「販売した利益で、ファクトリーでかかる費用をまかなえるようにする」 ということです。 それができれば、もっと雇える人数が増えるので、 第3、第4のコミュニティファクトリーへと拡げて行くことができます。 次に課題ですが、いま、貧困層の人たちを雇っているのですが、 同じ貧困層でも、親が工場に行かせないようにしているとか、 ドメスティック・バイオレンスから逃げられないという人がいるんです。 そういう人たちをどうしたらいいかという問題があります。 なかなか難しい課題ですが、一つの解決策としていま考えているのは、 コミュニティファクトリーの中に、 併せて住居機能を持たせることができないだろうか、 というプランがあります。 コミュニティファクトリーで働きながら、 同時にそこで生活することもできれば、 劣悪な環境から解放されますし、 一人ひとりの自立にもつながっていくと考えています。


B:ありがとうございました。



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