meeting with remarkable people [007]
安倍晴明
921-1005

平安時代、ひとりの不思議な男がいた。
その名を安倍晴明。
陰陽師という職種につき、
数々の伝説を残した。

安倍晴明の人物像は、もはや虚構の中にある。
なにしろ、平安時代末期の『今昔物語集』、
鎌倉時代の『宇治拾遺物語』や『古今著聞集』、
江戸時代の仮名草子『安倍晴明物語』、歌舞伎や文楽の演目、
そして現代では小説、マンガ、映画など、
いつの時代にも、「語られてきた」男だからだ。

彼は、実在の人物としてというよりも、
物語の中に、その生命を宿していると言えるかもしれない。
それはそれとして、ここでは、語り継がれてきた
彼の姿の断片をあげてみよう。

生まれは、大阪の阿倍野、讃岐、筑波など諸説ある。
父は、安倍益材(あべのますき)。
母は、霊狐であるという説が最も人気が高い。
遊女とも巫女であったとも言われている。
いずれにしても、彼の出自は謎につつまれている。

幼少の頃から怪異を見る力を持ち、
類い希な才能を発揮していた晴明は、
当時の陰陽道の大家、賀茂忠行に師事することになる。

陰陽道とは、中国の陰陽五行思想が海を渡り、
日本古来の風土と結びついて体系化されたものだ。
天文・暦法・占術などの学問を元に、呪術・祭祀を司る。

晴明が生まれた時代には、陰陽寮という役所があり、
公の機関として役割を担っていた。
現在で言えば、科学研究所と政府のブレーンを兼ねたような
ものだったのかもしれない。
いわば、一種の官僚でもある。

彼の才能は、次第に人々の知ることになり、
帝の信任を得るまでになった。
彼は、鬼を見、式神を操り、病をしずめ、雨を降らせる。
いずれも事象のダークサイドに関わるものだ。

彼は天文博士という称号を持っていたが、
位階は従四位どまり。
圧倒的な異能を評価されながらも、陰陽寮の長である、
陰陽頭になることは、最後までなかった。
あるいは、怖れられていた、とも言えるだろう。

晴明が伝説のヒーローとなったのは、
その身の置き方の鮮やかさが見事だったから、
とは言えないだろうか?
力を使うのは、民衆を支配するためではなく、
むしろ、ねじれた力を解放するため。
また、光と闇の中を行き来する、
その自由な姿に、人は何かの原型を見たのかもしれない。

人は力を欲する。
圧倒的な力を求めて、どろどろの戦いを繰り広げる。
いつしかそれは、個人の思惑を越えて、
鬼になり、怪異となって、世界の中でうごめき出す。
呪術とは、そのような力をくるりと裏返してしまうもの。
人間の潜在意識や妄念から生まれる力を、
逆手にとって、別のベクトルに変えてしまう…。

力をコントロールできる能力を持つためには、
力の渦中から離れていられる、醒めた目が必要なのだ。
さもないと、自分がその中で溺れてしまう。
 
幽玄、侘び、寂び、禅などに引き継がれていった、 
日本の霊性の種が、晴明の姿に眠っているような気がする。

彼は、85歳まで生きたという。
当時としては、異例の長寿である。
晴明の死後、彼の子孫は土御門家として、歴史の舞台裏で
君臨し続けた。
京都にある安倍晴明神社には、今でも参拝者の姿がとだえない。

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