meeting with remarkable people [090]
ジャンゴ・ラインハルト
1910 -1953


ジプシー音楽とジャズを融合させた「マヌーシュ・スウィング」で、
ジャズの世界にひとつの革命を起こした天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。
彼の繊細で洗練された旋律は、時を越えて今もなお世界中の人々を魅了しつづけている。
自身の本質を曇らせることなく、ジプシー社会と主流社会という相反する価値観の世界を生き、
激動の時代を駆け抜けていった彼の短い生涯を追ってみる。

1910年1月23日、ロマ(ジプシーの呼称)の旅芸人だった両親のもと、
ジャンゴ・ラインハルトはベルギーで生まれる。
一家はキャラヴァンと呼ばれる一頭の馬に引かせた移動式住居で、
ヨーロッパ各地を旅していたが、第一次世界大戦後はパリ周辺に定住。
ジャンゴは学校にも通わず、自由奔放な子ども時代を過ごすが、
徐々に音楽の魅力に目覚めていく。
ロマにとって音楽は、宗教、伝統、生きる糧として切り離せないものであり、
ジャンゴにとっても幼少の頃からいつもそばにある空気のような存在だった。

12歳の頃、念願のギターを手に入れると、片時も放さず、昼夜問わず独学で練習を続けた。
短期間で奏法をマスターしたジャンゴは、13歳になる前に
アコーディオン奏者の伴奏者としてダンスホールで働き出す。
人為的な教育を受けないことは、かえって彼の純真無垢な魂、
そして既成のものにとらわれない柔軟な感性を守ったのだろう、
文字も楽譜も読めない彼だったが、演奏を通して曲の旋律やコード進行を次々と吸収していき、
その卓越した才能と巧みな技術で、プロミュージシャンからも認められる存在となる。

1926年16歳の頃、当時アメリカから入ってきたばかりのジャズと遭遇。
その未知のリズム、躍動感あふれる自由な音楽に衝撃を受け、
自身の個性的な演奏スタイルを発展させていく。
しかし18歳の頃、思いがけない不幸が彼を襲う。
1928年10月26日の夜明け前、ジャンゴのキャラヴァンが火事に遭い、指に大火傷を負う。
ギタリストにとって致命的ともいえる左手の薬指と小指に障害が残るが、
1年半の入院生活で血の滲む努力を重ね、残った3本の指だけでなく
動きを失った2本の指までも駆使した独自の奏法を確立。
再び音楽の世界に舞い戻ってくる。

そして1934年24歳の時、ヴァイオリン奏者ステファン・グラッペリとともに、
弦楽器のみで構成されるバンド、フランス・ホット・クラブ五重奏団を結成。
その斬新で独創的なサウンドによって、ジャンゴは世界的な音楽家としての名声を勝ち取る。
しかし1939年のイギリス・ツアー中に第二次世界大戦が勃発。
ジャンゴらは後に控える公演を中止してフランスへ戻るが、
ステファンは戦火を避けてロンドンに残ることを決意したため、
フランス・ホット・クラブ五重奏団は解散する。

戦時中、ナチス占領下にあったパリでは、日ごとに自由が消え、
解放や娯楽を求める人々の関心はジャズへと向かう。
「スウィング」を合言葉に若者の心を掴んだジャズは黄金時代を迎え、
大衆のスターとなったジャンゴはクラリネット奏者を加えた新生五重奏団を結成。
泉のように湧き出るインスピレーションで創作活動をつづけ、
安定を求めることなくさらなる音楽表現の可能性を追求する。

終戦後の1945年、ジャンゴはイギリスに渡り、ステファンと6年ぶりに共演。
その後も何度か再結成し、1949年のローマでの二人の演奏は
『ジャンゴロジー』という作品で知られている。
1946年にはデューク・エリントンに招かれ、初のアメリカ・ツアーを行う。
晩年になっても、変わりつづける新しい音楽に影響を受け、
エクレトリック・ギターを取り入れた表現を試みるなど、
その情熱はとどまることなく進化しつづけた。
42歳の頃になるとパリを離れ、セーヌ河畔の豊かな自然に囲まれた村に移り住む。
釣りや絵画を楽しみ、川の流れに真の音楽を発見するような平穏な日々を送る。
1953年5月、スイス公演中に指の障害や頭痛に悩まされるようになり、
フランスへ戻った翌日の5月16日、脳出血により43歳の若さでこの世を去った。

金銭問題や失踪癖、秩序をひっくり返す言動で
まわりの人々を愕然とさせたというジャンゴのエピソードは数多く残っている。
物質的なものにこだわりを持たない精神性は、時に自分勝手で社会に適用しない。
しかし、それは違うものを掴まえていたからといえる。
外側から見れば今の社会は進歩しているように見えるが、
内側の霊的な部分から見れば、スピリチュアリズムが中心にある
ジプシーの魂の世界はもっと古く、進歩しているのかもしれない。
すべての人に同じ時が二度とこないように、
一度きりの瞬間に生まれる直感をとらえた彼の即興音楽からは、
躍動する生命力、生きる喜びが伝わってくる。
内なる声に従って「いま」を大切に生きつづけたジャンゴは、
喜びを解放し、「いま」を生きる機会を与えてくれる。



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