meeting with remarkable people [095]
ヘレン・アダムス・ケラー
1880-1968


盲聾者として暗闇と静寂の世界を生きたヘレン・アダムス・ケラー。
「あらゆる視力を超えた視力」で物事を見て、
自然の中で芳しい植物の香りと共に音楽を感じていたという彼女は、
作家や社会福祉事業家として世界各地で活動した。
「奇跡の人」といわれたその人生は、どのように彩られたのだろうか。

1880年6月27日、米アラバマ州タスカンビアにてヘレンは産声をあげた。
1歳8ヶ月の時、胃と脳の急性鬱血に襲われ、
一命は取りとめたものの、聴力、視力を失う。
感情を表現する術を知らずに育ったヘレンは、
思い通りにならないと暴れるなどしつけもままならず、
7歳を迎えようとしていた。
両親は、医師の紹介で電話の発明で知られる
アレクサンダー・グラハム・ベル博士の許を訪れ、
教育について相談したところ、
パーキンス盲学校を卒業したばかりだった
20歳のアン・マンスフィールド・サリバンが、
家庭教師として派遣されることになった。
彼女自身も幼い頃、病いにより全盲に近い状態となったものの
視力が回復するという経験をしていた。
その後アンは教育者としての才能を開花させ、
約50年に渡り、ヘレンを支え続けることとなる。

アンの教育によって言葉を手に入れたヘレンは、
指話でのやりとりが可能になると点字を覚え、
更には自ら願い出て聾学校で発音も学んだ。
また、溢れ出る言葉をしたためて文才を発揮し
『霜の王様』という短編小説を書いてパーキンス盲学校校長へ贈った。
ところがその作品が、マーガレット・T・キャンビーの
『霜の妖精』にそっくりであることが判明する。
へレンがその物語を知った経緯は判明せず、
故意に盗作した訳ではなかったが、
この一件で校長との信頼関係は崩れてしまう。
12歳の初著作は苦い経験となった。

翌年、ヘレンが第二の恩人と呼んだジョン・ヒッツと出会う。
ベル博士が設立したヴォルタ局(聾者のための情報発信を目的とした機関)
局長であったジョンは当時70歳だったが、
点字を覚えてヘレンのために多くの本を点訳した。
中でも、兼ねてから霊魂の存在を感じていたヘレンは
スウェーデンボルグの『天界と地獄』に感激し、
その思想を信奉するようになるが、
その様子をアンやヘレンの家族はあまり歓迎していなかったようだ。

1900年、20歳の時にラドクリフ大学へ入学を果たす。
ヘレンの文才を高く評価した教授の紹介で雑誌の連載を担当し、
これが評判となり処女作『THE STORY OF MY LIFE』を出版。
この頃出会った大学講師ジョン・メーシーとアンは後に結婚し、
ヘレンにも大きな影響を与えてゆく。
大学卒業後、マサチューセッツ州盲人委員会の委員となり、
盲人が仕事に就ける社会を目指そうと活動を始めるが、
その後委員会を退き社会党に入党する。
そして、著作活動の傍ら貧困や差別の原因を追究すべく、
革新的運動に積極的に参加するようになる。
これらは社会主義者であったアンの夫ジョンの影響と言われるが、
アンはふたりの行動には冷淡な反応を見せており、
この頃のヘレンの発言に対しては、
思想の偏りだとして批判する声もあがっていたようだ。
後にアンとジョンは別居し、
ポリー・トムソンという女性がアンと共にヘレンを支えてゆく。

36歳の時、ジョンの助手であった10歳年下の男性と恋に落ちたヘレンは、
駆け落ち同然に婚姻手続きを済ませるが、
その生活は2ヶ月足らずで終わりを迎え、その後は独り身を貫いた。
ヘレンの活動は世界で知られるようになり、
1934年には、後に日本盲人会連合会長となる岩橋武夫がヘレンの許を訪れ、
日本の障害者支援体制への呼びかけを要請している。
1936年、56歳の時アンがこの世を去り、
深い悲しみのなか翌年にはポリーと共に日本を訪問。
日本の障害者支援体制発展のため講演を行った。

1960年にはポリーがこの世を去り、
またも大きな支えを失う。
翌年、軽い脳出血で倒れたことをきっかけに、
体力、気力ともに衰えて公的活動から退くが、
功績を讃えられ米政府から最高位の勲章メダル・オブ・フリーダムが贈られた。
そして1968年6月1日、自宅にて87年の生涯に幕を閉じ、
アンとポリーと共にワシントン国立大聖堂に眠っている。

三重苦を背負いながらも懸命に生きた聖女、
というイメージを持たれがちだが、
その生涯は無垢な白と多色の激情が入り混じった激しいものだったようだ。
アンは当初からヘレンが神童扱いされることを嫌い、
思考のシンボルとして言葉があることを教え、
人間らしく生きるための教育を授けた。
高い学習能力、感知力を持って純粋に暗闇を生きることは、
時として狂の世界へ迷い込むことと紙一重であろうが、
こうしたアンの教育がそのバランスを保ち、
ヘレンの人生は光り輝いたのだろう。



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