meeting with remarkable people [098]
南方熊楠
1867-1941


世界を股にかけて自学自習の道を歩み、
博物学や民俗学をはじめ多くの分野に精通する
博識無限な人物として名高い南方熊楠。
生涯に渡って森羅万象を探求し続けた彼が遺した書簡や日記からは、
実に破天荒で独創的な生き様が見て取れる。
「知の巨人」はいかにして誕生したのだろうか? 

江戸幕府が終焉を迎えようとしていた慶応3年(1867年)、
和歌山城下橋丁(現在の和歌山市)で雑賀店を営む両親の下に生を受ける。
9歳の時に全105巻に及ぶ百科事典『和漢三才図会』を丸暗記して筆写を始め、
13歳で洋書を参考にした自作の教科書を完成させるなど、
その神童ぶりが評判となっていた。
才人には幻覚体験者が多いと言われるが、
熊楠も幽体離脱の体験を告白しており、
自身の脳の構造異常を疑っていたようだ。
また、癇癪持ちで好悪の差が激しい熊楠は、
気にくわない事があれば相手の顔めがけて
自在に胃の内容物を吐き出すことが出来、
自らを「反芻人」と表現した。
成人してからもこの特技は度々披露され、
多くの人が泣かされていたことは言うまでもない。
そんな熊楠も、ひとたび山に入れば
帰宅を忘れるほど植物採集に熱中していた。

和歌山中学へ入学。
学業も程々に、相変わらず筆写と植物採集に明け暮れていた熊楠を見て、
教師の鳥山啓は熊楠に博物学を勧め、標本作成のいろはを指導した。
顕微鏡で見るミクロの世界に驚愕した熊楠は、
とりわけ変幻自在に変化する粘菌に心奪われたようだ。

1883年(明治16年)、中学を卒業し上京。
大学予備門に入学し、同窓生の正岡子規らと
当時流行していた寄席に通い詰めるなど学生生活を謳歌していたが、
とうとう落第し自ら退学した。
和歌山へ帰郷するも、
西洋の科学思想を学ぶためにアメリカに渡る。

ミシガン州農業大学へ入学したものの、
寄宿舎での酒盛りが原因でまたも自主退学。
画一的な学校生活から解放された熊楠は自由に研究に打ち込み、
『ミシガン州産諸菌集』を完成させた。
また、キューバへの採集旅行中には、
なぜか像芸師助手としてサーカス団の巡業に同行。
18カ国語を理解していたと言う熊楠は、
世界各国から届くファンレターへの返信も担当し、
団員らの人気者だったようだ。

26歳の時に、学問の都ロンドンへ。
知人の家で出会った骨董商、片岡政行の紹介により
大英博物館での資料閲覧を許され、
のちに東洋図書目録編纂係の職を得る。
翌年には、科学雑誌『ネイチャー』に天文学の論文『極東の星座』を寄稿。
この処女作が大きな反響を呼び、
熊楠が暮していた馬小屋の2階には多くの人が訪ねてくるようになる。
ロンドンに亡命中であった中国人青年、孫逸仙(孫文)もその一人であった。
大英博物館では、考古学や宗教学の稀覯書を筆写していた熊楠だったが、
暴力事件を起こして大英博物館から追放されてしまった。
海外生活に見切りをつけ、14年ぶりに日本に帰国。
弟の常楠の元に居候していたが諍いが絶えず、熊野に移る。
40歳の時に結婚して1男1女をもうけ、和歌山県田辺市に定住。
隠花植物の宝庫である社寺林の中で研究を続けていたが、
神社合祀政策により社寺林消滅の危機にあると知ると、
逮捕騒ぎを起こしたり、
当時官吏であった柳田國男に働きかけを要請するなど反対運動にのめり込んだ。
柳田とは文通が始まるが、のちに絶縁状態に。

1929年(昭和4年)、昭和天皇に粘菌学の進講を行う。
献上物は通常、桐の箱などに納められるが、
熊楠はキャラメルの空箱に粘菌標本を詰めて献上したという。

1941年(昭和16年)、萎縮腎のため74歳で他界。
本人の希望により脳解剖され、脳は保存された。
近年行われたMRI調査により、
記憶を司る海馬の萎縮が認められたことから、
これが幻覚などを引き起こした原因ではないかと言われている。
また、遺された数万点に及ぶ資料については現在も調査中だが、
なかでも彼が描いた独自の曼陀羅「南方曼陀羅」が、
その思想を紐解く鍵として注目されている。

多くの書物を暗記して筆写していた熊楠は、
得た知識の反芻作業を行っていたのかもしれない。
繰り返し味わって飲み込んだ知識と、
山伏の如く野山を駆け回って自然から感じ得たものは、
抜群の消化吸収力をもって自身の血となり骨となっていたのだろう。
情報が溢れ、多くの知識を得ることが容易になった現代。
「知識の食し方」がキーワードとなりそうだ。



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